国内の残留農薬対策と食品分析機関について

現在、日本では残留農薬に関することは主に農薬取締法とポジティブリスト制度によって定められています。残留農薬基準は農産物や畜産物だけに関連するもののような印象がありますが、この二つの法律で定められた基準値や規則は加工食品も含むすべての食品に適用されます。そのため多くの食品メーカーでは原料段階や製品段階で残留農薬対策を実施しています。食品メーカーではどのような残留農薬対策をしているのでしょうか?

原料段階での残留農薬対策

多くの食品メーカーでは原料の仕入れの段階で残留農薬を厳しくチェックします。チェックの方法は二つあります。一つは仕入れた原料を自社で検査する方法です。大手メーカーでは仕入れた原料を自社工場の品質管理設備で分析します。

残留農薬を分析する設備は非常に高価でまた分析する技術者も必要になります。ほとんどの食品メーカーではこのような設備を持たないので食品分析機関に依頼します。もう一つの方法は、原料の仕入れ先に残留農薬検査の結果を書面で提出させる方法です。

この方法では原料を作っている農家や畜産業者が残量農薬の検査をするのですが、実際に検査をするのは食品分析機関です。加工食品のメーカーでは原料の残留農薬チェックだけでも何十品目に及ぶこともあります。しかし、この段階で残留農薬検査をおろそかにすると、製品に準値以上の残留農薬が確認されてしまうこともあり得ます。

もし、そのようなことになれば、日本国内では流通させることはできません。製品になるまでのすべて原料代や加工賃や時間をむだにすることになってしまうのです。これを考えて、各メーカーでは残留農薬検査代は当然かかるコストと認識しています。

製品に対する残留農薬検査対策

多くのメーカーでは、自社製品の食品分析をして残留農薬の検査をします。

この検査も原料検査と同じく、食品分析機関を使うのが一般的です。もし、製品に基準値以上の残留農薬が確認された場合には、その製品は国内では販売できません。

製品に残留農薬違反が見つかった場合には、どの原料が原因なのか判断が非常に難しくなります。このため、原料段階の残留農薬検査は非常に重要なものになります。

一方でその製品を仕入れる小売店などの販売業者でも残留農薬をチェックします。

多くの場合、その製品を仕入れる段階で残留農薬の検査結果の書面を提出させるなどの対策を取っています。また、一般の小売店などには、地域の保健所などが販売されている商品をランダムに収去して残留農薬の検査をします。

この場合にも実際に分析するのは食品分析機関です。もし、この時点で残留農薬違反が確認されると、メーカーに製品回収命令が出たり廃棄命令が出たりします。また、メーカーには社会的責任と信用の問題があるので場合によっては自主回収することもあります。

保健所では原因を究明し今後の対策を明記した文書の提出を求めます。場合によっては大きく報道されることもあります。もし、健康被害が確認された場合には損害賠償などの問題も起きます。

輸入品の残留農薬検査

昨今あらゆる食品が世界各国から輸入されるようになりました。輸入品の残留農薬に関しては輸入者がメーカーと同等の責任を負います。輸入された食品のパッケージには必ず輸入者の表示があります。輸入者も日本のメーカーと同じように原料段階と製品段階で残留農薬検査を行います。

多くの場合、輸出国の食品分析機関で検査をして、その検査結果を文書として輸入するときの船積書類などに添付します。この時に注意しなければならないのは、その検査機関が日本の残留農薬にかかわる法律を知らなかったりすることです。

日本の残留農薬基準値はポジティブリストに定められています。それを知らない場合も少なくありません。そのため、輸入品の場合には、たとえ船積書類に残留農薬検査結果が添付されていても、日本に貨物が到着した時点で、検疫所の検査を受けることもあります。

検疫所ではランダムに輸入品の残留農薬検査を実施しています。違反率の高い品目や輸出国の場合には全件検査を受けなければならないこともあります。検疫所の検査には命令検査、モニタリング検査、自主検査があります。

これらの検査で残留農薬違反が確認された場合には通関手続を継続することができず、廃棄や積戻しの命令が出ます。

検疫所が行う検査も実際に分析するのは食品分析機関です。

国内の食品分析機関

食品衛生法に関連する食品分析に関しては厚生労働大臣の登録を受けた登録検査機関で行います。登録検査機関になるためには、厚生労働省に登録申請が必要です。申請方法・登録基準などが細かく決められていて、その条件を満たしていなければ登録検査機関にはなれません。

登録検査機関は政府の代行機関として業務を行います。業務に関しても細かく法律で定められています。ただし、登録検査機関であっても、食品衛生法に直結しない、企業の研究開発関連に関する食品分析も行います。メーカーが自主的に行う検査は登録検査機関で行う必要はありません。

また、もともとメーカーの検査室であったところが、登録検査機関になるための基準を満たす条件を整えて独立した検査機関となって登録申請している場合もあります。現在日本国内のほとんどの都道府県には登録検査機関があります。

残留農薬検査の必要性

残留農薬検査違反の食品を食べると、すぐに健康被害がでるのかというと、一概に出るとも出ないとも言えません。余程異常な数値の場合には健康被害が出てしまいますが、多くの場合、一度、その食品を食べたからと言って健康被害が出ないことも少なくありません。

残留農薬の基準値は非常に細かい計算によって定められているからです。基準値を定めるときのベースになる数値の一つがADIといわれるいものです。ADIはその農薬を一生涯毎日摂取したとして健康被害が出ないとされる、一日許容量のことです。

こういうと、それなら、残留農薬基準にあまり神経質にならなくてもいいのではないかと思う人もあるかもしれません。しかし、よく考えてみてください。私たちは一日に何十種類という食材を口にします。加工食品一つの中にも何種類もの食材が含まれています。

しかも、365日食べ続けます。もし、基準値以上、残留農薬のある食品を度々食べるようなことがあれば、毎日残留農薬を積み重ねてしまうことになりかねません。こう考えると残留農薬の問題を軽く考えることはできないのです。

残留農薬基準は私たちの健康を守るとても大切な基準です。そして残留農薬検査はその基準値が遵守されているのかをチェックする非常に重要な検査と言えます。

参考情報《食品分析:QSAI